市辺押磐皇子主従、大泊瀬幼武尊(雄略天皇)により殲滅
従者の一人が君命を守り血路を開いて遁走
この時、従者の一人が市辺押磐皇子の君命を守り、大勢の敵中を切り抜け、血路を開いて遁走した。
この者は市辺押磐宮宅の従者の中でも有名な屈強の若者で、武芸に秀で、勇敢であるのは並ぶものなく、天晴にもこの豪傑は、身に数十か所の負傷を負ったにもかかわらず、大勢の敵を切り抜け、主君の命令を守りとげようと必死になって、戦場をしばらくして切り抜ければ、ここかしこに敵の騎兵の群れもいて、伏兵もいたが、ここまで来るともう敵の姿は無く、安全な場所だと思えるので、この若者は、落ち着いて主君のいる方角を再三再四伏し拝んで、今生の別れを告げ、ようやく次の村落に辿り着き、村人に
「私は市辺押磐宮宅の臣下です。宮宅の主従は大泊瀬幼武尊の逆襲に遭って、もはや殲滅したも同じこと。村人よ、直ちに市辺押磐皇子の元に馳せ参じ、加勢してくだされば、宮宅の主従は助かることもあるかもしれません。何卒、なにとぞ、宮さまたちの御命をお助けください。」
としきりに嘆願をし、「助命、助命」と呼び叫んだ。
この時村人たちは異様な声で助けを呼び、走り回る舎人の悲嘆に驚き集まって来るものが大勢いた。